３月２日公判レポート

■またしても出なかった「摘出心臓」

  今回の傍聴者は２４人、被告側は監察医を代理するＳ弁護士、ほかに神奈川県の職員４人ばかりが出席していた。勤務先のクリニックが、裁判所と同じ関内にあるＪ監察医は、相変わらず出廷していない。
　冒頭、裁判長が、ＤＮＡ鑑定にあたる予定の日本大学医学部・押田茂實（おしだ・しげみ）教授との電話会談の内容を伝え、「では、いつにしますか」と原告、被告双方に問い掛けたのには、いささか驚いた。
　というのは、前回の公判で、被告側が「横浜犯罪科学研究所」でホルマリン漬けの「摘出心臓」を特定するか、または法廷に出す、という話し合いが原告と被告の間で既に合意済みだったからである。
 　確かに「いつ出すか」という約定はなかった。しかし前回の２月９日公判からは１ヶ月近くが経っている。準備ができない時間とは常識では考えられない。なにしろ、最初に被告が「摘出臓器を出します」と述べた10月12日の公判からは４ヶ月半が経っている。　ともかく、進展がスローモーなこと、このうえない。

■Ｊ監察医意見書

  亡久保幹郎氏の「摘出心臓」提出を求める原告、そのDNA鑑定の結果を見たい傍聴人の我々としては、またしても肩透かしを食らったわけだが、なぜ、こういうことになったかについては、公判終了後、２月28日に被告Ｊ監察医が、Ｓ弁護士を通じて裁判所に提出していた「意見書」を見るまで、筆者には分からなかった。 （→「意見書」全文をクリック）
　「意見書」には、Ｊ監察医の意向として、次のことが書いてある。

１）検証や鑑定など、するまでのことではないと考えるが、裁判所が必要と判断したならば、提出にやぶさかではない。

２）その場合、心臓は出したくない。ＤＮＡ鑑定に必要な最小限の組織片にとどめ、心臓は自分が保管を続けたい。

　このように公判直前になってからの条件付けがあったので、裁判長が鑑定人・押田教授の意向を確かめるため、電話会談をしたのである。

■押田教授の意向とＳ弁護士主張

  裁判長の説明では、次の３点が押田教授の意向であった。

ａ）心臓だけでなく、保管している全ての臓器を出して欲しい。死体検案書を書くに到った診断の経緯を示す書類も出して欲しい。

ｂ）久保氏の子息と、臓器が確かに親子の関係にあるかどうかの確認のためには、ＤＮＡ鑑定以外の方法も用いたい。

　Ｓ弁護士からの抗弁は、「第３準備書面」(→クリック)の「本件事案の争点」にあるものと同じ内容なので、詳しくはそれを参照願いたいが、筆者なりに咀嚼すれば、要するに次のようなことだ。

「原告が民事裁判を起こしているのは、交通事故死によるものなら、もっと得られたであろう死亡保険金を得られず、それを監察医が心筋梗塞という病死と判定した、あるいは解剖がなかったとするところに保険金が得られなかった理由を持っていき、Ｊ監察医に損害賠償請求をするのは筋違いだ」


　だから原告は死亡保険金の請求をしたければ、交通事故の有無を立証すればいいのであって、解剖の有無、死因が心筋梗塞によるのかどうかは、訴えの内容とは関係ないという。読者は、言っていることが分かるだろうか。まあ、こうして書いている筆者にも、Ｓ弁護士のロジックはよく分からない。

■「第３準備書面」のその他部分

  「第３準備書面」には、原告側が提出した下記記事にたいする被告側の反論・コメントも含まれているので、参照して欲しい。

• 甲第２０号証　死体検案、解剖、医師別処理件数表。
• 甲第２１号証　平成１２年３月１日朝日新聞記事。
• 戸塚事件の絞殺体を「心筋梗塞」と判定した件

  以上

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