伊藤順通証人尋問・反訳書
(平成12年7月10日・東京地裁633号法廷)
伊藤医師証言のポイント
- 解剖の際、交通事故に遭った、遭わないなどの説明を警察から一切聞かされていない。警察からは、単なる変死事件として聞いた。通常は(死体発見時の状況について)聞かされるが、この件では自分は全くカヤの外に置かれた。事故に遭ったらしいということは、後に夫人(原告)から事故証明を送付されて知った。
- 解剖の際、久保氏が横浜市民病院に搬送されたことは知らなかった。
- 解剖の際、録音テープを取っていない。頭の中に記憶をしておき、直後に書いたほうがはっきりしている。
- 解剖において外表検査を行う際、久保氏が横たわっていて、本人と分かる写真は撮影していない。心臓の写真3枚はある(注:反訳書からは撮影者を特定できず)。
- 葬儀社の高橋栄行氏(当日2時に久保氏を解剖室に運び、伊藤医師が解剖をせずに立ち去ったと証言している人物。)は、当日、解剖室には絶対に来ていない。
注:平成18年9月13日、藤尾正之氏(仮称)を、本人死亡のため高橋栄行氏(本名)に変更。
宣誓
良心に従って真実を述べ、
何事も隠さず、
偽りを述べないことを
誓います。
氏名 伊藤順通(印)
原告ら代理人
- 私が平成12年6月9日付けで、あなたの代理人である斎藤先生あてに、手紙を差し上げたのですが、それはご覧になりましたか?
- はい。
- 今回の証言に当たっては、事前に記録を読んで、十分記憶を喚起の上出廷してほしいというお願いの手紙なのですが、そういう内容でしたね。
- そのとおりです。
- 今回この法廷に臨まれるに当たって、どんな記録を読んで、記憶を喚起してきましたか。
- すべての記録を読んできました。
- べての記録というのは、具体的には何ですか。
- 検案調書、鑑定書、メモ等です。
- そういった記録が、あなたの手元にあるわけですか。
- そのとおりです。
- 民事の裁判所に出すために、死体検案書を発行してほしいというように私はお願いして、あなたは今日それを持ってきてくださいましたね。
- はい。
- あなたは久保幹郎さんの死体検案をしましたね。
- はい。
- 解剖は行いましたか。
- 行いました。
- 何年何月何日の、何時から何時まで解剖を行ったのですか。
- 平成9年7月9日午後7時40分から、午後8時40分までです。
- 1時間ですか。
- はい。
裁 判 官
- いま、7月9日と言われましたね。
- はい。
- それは間違いないのですか。
- 7月9日と記憶しています。
原告ら代理人
- なくなったのは、7月19日です。
- 19日です。19日の10が記憶から落ちました。
裁 判 官
- そうすると19日ということでよろしいのですか。
- はい。
原告ら代理人
- 7月19日の午後7時40分から、8時40分までやったということですか。
- そのとおりです。
- 解剖を行った場所というのはどこですか。
- 横浜犯罪科学研究所と称している所の解剖室です。
- あなたが経営されている医院のある場所ですね。
- 私は今は経営していますが、先々代から続いている場所です。
- そこで行ったのですか。
- はい。
- 久保幹郎さんの御遺体を、その解剖場所まで搬送した葬儀社の名前は分りますか。
- 北原葬儀社(仮称)だと記憶しています。
- 担当者の名前は分りますか。
- 一人は草深(仮称)だと思います。
- もう一人はだれですか。
- 分りません。
- 高橋さんという人は知らないですか。
- 知っています。
- 高橋栄行さんというのですが。
- フルネームは存じませんが、高橋という名前については記憶しています。
- 当日久保さんの遺体を運んできた人は、名前はだれですか。
- 草深です。
- 一人ですか。
- もう一人いたと思いますが、記憶はありません。
- 遺体が運ばれてきたのは、解剖開始時刻の少しくらい前という感じですか。
- そうだと思います。
- 今回あなたが行ったというように言われている解剖ですが、いかなる法律の規定に従って解剖を行ったのですか。
- 当初は死体解剖保存法の第2条、第7条、第8条で着手したのですが、それから間もなく刑事訴訟法の168条です。
- 裁判官の許可状が発布されて、それに基づいていわゆる司法解剖を行ったということですか。
- そのとおりです。
- 解剖に立ち会った人はいますか。
- 警察官が2人だったと思います。
- 名前は分りますか。
- 斎藤清、井出二政と記憶しています。
- 保土ヶ谷警察署の警察官2人が立ち会ったということですね。
- そのとおりです。
- 午後8時40分ころ解剖が終わって、久保さんの御遺体を搬出した業者というのは、覚えていますか。
- 同じです。
- 北原葬儀社。
- そのとおりです。
- 担当者はだれですか。
- 草深だと思います。
- この7月19日ですが、久保さんの御遺体が、先生の研究所に行ったというのは、一回だけですか。
- そのとおりです。
- 午後7時40分以前に、御遺体があなたの研究所に搬入されたということはないですか。
- ですから解剖の直前です。
- 1回だけですか。
- はい。
- 久保幹郎さんの遺体ですが、どのような手順で、どのような部位を解剖したか説明していただけませんか。
- それは型のとおり外表の検査、つまり死体検案を行いまして、次に頸胸腹部の解剖を行いました。
- 頭部の解剖はしたのですか。
- 頭部の解剖は行いません。
- 解剖後に原告に、頭部の解剖をやったと説明したことはないですか。
- ないです。解剖はしましたと言っただけで、それは何かの誤解だと思います。
- 頭部の解剖をしたというように言ったことはないですか。
- ないです。
- 頭部の解剖はしなくて、胸部の解剖をしたということですか。
- 頸胸腹部です。
- どのようなかたちで解剖したのですか。
- 型のごとく解剖は、胸部の鎖骨上窩の正中線上から下腹部まで切開しまして、頸胸腹部の内臓について観察をしました。
- 法医学書によると、頸部から恥骨くらいまでを、真ん中を外皮を切り開くということですね。
- 解剖にはいろいろな方法があります。例えばY字切開と言いまして、衣類を着せたときに頚部の切開痕が残らないようなやり方もあります。
- 先生が久保さんの遺体を解剖したその解剖について聞いているのですけど、もう少し分りやすく話してほしいのですが。喉元辺りからですか。
- 鎖骨上窩といいまして、胸部の一番上です。それから胸腹部の真ん中の線、正中線を切開して、恥骨結合の上までです。
- おへそよりは下ですね。
- もちろんです。
- 切り開いて、その後臓器を摘出したわけですか。
- 取り出して、一つ一つの臓器について、肉眼的観察をし、そして所見をまとめて、必要な病理組織学的検査に必要なスティックといいますが、組織片を、心臓はそっくりそのまま、その他の臓器については、組織片を切り出して、そして元へ戻して終わりました。
- 心臓は、そっくりそのまま保存してあるということですね。
- はい。
- それ以外の臓器は、現在スティックとして保存しているということですか。
- スティックとして取り出して、病理組織学的標本を作成し、小さいスティックですから、でも残りはまだ持っています。
- 今も持っている。
- 残っています。
- 心臓も持っている。
- 心臓は持っています。
- そういう解剖の検査をした後どうするのですか。取り出した臓器を元に戻すわけですか。
- そうです。
- それでどうするのですか。
- 縫い合わせます。
- 先生が縫い合わせたのですか。
- そうです。
- 常識的に見ると、縫い合わせた跡というのは、一般人が見ても、これは切ったなというのが分かるわけですか。
- 衣類を脱がせれば分かるのではないかと思います。
- そのように先生は解剖されたと言われるのですが、その結論としてお尋ねしますが、今回久保さんが亡くなった原因というのは、何であるというように判断されましたか。
- 私は、肉眼的にも病理組織学的にも、心筋梗塞と判断しました。
- 久保さんは、何が原因で亡くなったという情報は、事前に解剖の前に先生には与えられていたのでしょうか。
- 単なる変死としての情報はありましたが、それ以外の情報はありません。
- 交通事故に遭ったとか遭わないとか、そういうことは聞いていませんか。
- そのときにはありません。
- 交通事故証明書という記録上、久保さんは7月19日の午前0時ころ交通事故に遭っているということなのですが、それは現在はご存じですね。
- 現在は承知しています。
- 久保さんが運転していた車は、ご覧になったことはありますか。
- ありません。
- 甲第7号証(写真撮影報告書)を示す
こういうジープなのです。
甲第7号証のC(写真)を示す
- フロントガラスが割れている。
- はい。
- 甲第7号証の@(写真)を示す
- 右前角のバンパーが折れ曲がっているのです。
- はい。
- こういう交通事故に遭ったようなのですが、この交通事故と久保幹郎さんの死亡との間に、関係はあると思いますか。
- 直接の因果関係はありません。
- 間接的にはあるということですか。
- 完全否定はできません。
- これだけの交通事故に遭えば、交通事故で当然衝撃を受けますね。それが原因で心筋梗塞になったという可能性も否定はできないということですか。
- 強い衝撃を受けたか受けないかは私には分かりませんが、少なくとも全身の外表検査において、損傷の状態を私は記憶していますが、そんな強い衝撃を受けたとは理解できません。
- 先ほど車の写真をお見せしましたね。
- はい。
- あの程度の衝撃は受けたのはほぼ間違いないと私は思うのですが、フロントガラスが割れたり、鉄製のバンパーが折れ曲がるくらいの衝撃を受けたことが原因で、心筋梗塞になるということは否定はできないということですか。
- 間接的には完全否定はできないと、私は申し上げているのです。
- 久保幹郎さんが亡くなった時刻ですが、何時ころというように考えましたか。
- 私は検案解剖からさかのぼること17時間前後くらいだろうというように推測をしました。多少の誤差はあるだろうと思いますが、それで計算していただければと思います。
- 久保幹郎さんは先生の元に搬送される前に、横浜市民病院に搬送されたのですが、それは解剖当時は知っていましたか。
- それも後に聞かされました。
- 甲第11号証(検査伝票)を示す
- 久保幹郎さんの生化学検査の検査票で、事故当日横浜市民病院が行った検査の結果なのですが、このデータを見て死亡の原因として何か考えられることはないですか。
- この検査データを見ますと、GOT,GPTが37、GOTは高いです。GPTも高いですが、そんなに高値ではありません。LDHが1002、これは高い値です。腎臓の機能であるBUN、これは残余窒素ですが、これもちょっと高いです。その他はCRNもちょっと高いですし、無機物質の電解質のカリウムがちょっと高い、これだけでは十分な判断はできません。
- 私の知り合いにそれを見せたところ、Kで表示されているカリウムの数値が9ですね。
- はい。
- それが異状に高いというように教わったのですが、そうは思いませんか。
- 高カリ血症とは、異状に高いというようには思えませんし、この血液を採取したデータは、死後大分たってから採血して検査したものだと思います。
- カリウムが数値として7を超えると、死に至る可能性があるというように私は聞いたのですが、それは間違いないですか。
- 高カリ血症になっていますが、この検査データ自体も、死んでいるのを発見されて念のために市民病院に搬送して、そこで採血した血液です。したがって、こういう死後の血液の検査ということは、一概に信用するということは難しいと思います。特にこのGOT,GPT、LDHというのは肝臓機能の酵素反応ですが、この酵素反応というのはもっともっと異状に死後は高くなるのです。ですから、私は当てにならないと、こういうように判断します。カリウムも高くなります。
- 一般論として、腎臓その他の臓器に強い衝撃を受けると、カリウムがその体の中に出てくるというのはあることですね。
- 一般論としては有り得ますが、それには腎臓に強い衝撃を受けるというと、これは腎臓に相当する外部に損傷がなければならないので、その損傷はありませんので、そういうことは考えの中に入れることはできないと思います。
- 解剖に関する資料についてお尋ねしますが、保存されている心臓は開示してくれると、かつて私に言われたことがありましたね。
- あります。
- それは今でも開示してくれるのですか。
- その当時とその後のいろいろな状況から、ちゅうちょしています。今はすべて捜査当局に伝えてありますので、捜査当局から聞いていただきたいと思います。
- 解剖記録等の記録を、開示はしてくれませんか。
- それもすでに捜査当局に提出済みですから、そちらの方に求めていただきたいと思います。
- 私が、東京高等検察庁の担当検事に聞いたら、どうぞそれは本人が望むのなら出してもらえばよいではないですか、というように私は言われたのです。
- 私は聞いていません。
- 検事がそういうことを言ったら、あなたは出してくれますか。
- 法廷なり何なりの、法律的な手順を踏んで、どうしても提出しなさいということであれば、私はしますけれども。
- 検事が、心臓の臓器や記録を出しても構わないよと言ったら、出してくださいますか。
- 個人的な話し合いではなくして、法律的な手順を踏んでならば、いつでもお出しします。
- 法律的な手順というのは、どういう意味ですか。
- 法律の命令で、法律によって提出しなさいということです。
- この民事の裁判所に嘱託すれば、出してくれますか。
- 私はよく存じませんが、高等検察庁に何か申し出ているそうですから、単に現法廷だけでは、私には判断できません。
- 高等検察庁がよいよと言ったことが前提になっていて、それを前提に民事の裁判所からの嘱託があれば、出してくださいますかという質問です。
- ですから、それは私には何ら伝わっていません。今先生からよいよと言われたよと言われても、一概に今ここで信用するわけにはいきません。
- 先生が信用できないというのが分かるから、仮定の質問なのですが、高検の検事がよいよ言った場合には、出してくれますかという質問です。
- その用意はあると思います。
- 久保さんの遺体を解剖したという、その写真はありますか。
- 写真は、心臓の写真が3枚ありました。
- 横たわっていて、この体が久保さんの体だと特定できるような写真というのはないのですか。
- それはありません。
- 外表検査のときに、写真は撮らないのですか。
- 一般的に変死体が発見されると、刑事訴訟法の224条ですか検死によって、まず変死体が発見されたときには、警察官が検死をしますから、そして外表検査をすべて済ませますから、そのときに写真を撮って、私の所に真っ裸な状態で死体を搬送してきますから、したがってもう撮ったものと思っていますから、私はそれについては催促も何もしません。いつものとおりだと思いました。
- 久保さんの顔が写っていて、久保さんと特定できるような解剖をしたという写真はないということですか。
- そのとおりです。
- あなたは解剖後、原告らの久保佐紀子さんやその子供たちと、お会いになったことがありますか。
- 1回だけあります。
- 2回ではないですか。
- 1回だと思います。
- 平成9年10月17日にお会いになりましたね。
- 私は1回だというように記憶しています。
- 10年17日に、久保佐紀子さんと長男、次男、迫田司法書士、この4人であなたの医院を訪ねたことがありませんか。
- 当初は久保幹郎さんの奥さんと、長男、次男の3人がテープレコーダーを持って見えたことは、私は記憶しています。その後司法書士の迫田さんが来たかどうかということは、迫田さんということも記憶にありますけれども、顔を見たか見ないかという記憶は乏しいです。
- そのときの会話で、頭部を解剖したかという質問を出して、頭も解剖しましたよというように答えてます。
- 違います。ちゃんと解剖しましたということで、それは言葉じりだと思います。
- あなたはその場で、おれも警察の被害者だというように言ったことはないですか。
- それは記憶していません。
原告(久保佐紀子)
- 腰、といいますと、背中の方なのですが、腰の裏に動物の足跡くらいの大きさの痕跡が2、3箇所、市民病院で発見されているのですが、先生はそれを確認していますか。
- 外表検査は、私どもの務めですから、頭のてっぺんから足の爪先まで綿密に観察します。久保幹郎さんの外表に認めた損傷は今記憶していまして、動物の足跡というのは、私は違うと思います。
- 動物の足跡くらいの大きさということです。
- 違うと思います。
- 足跡くらいの大きさのものが、2、3箇所、これは市民病院の先生によって確認されていますが、それは体をうつ伏せにしないと見られない所です。先生の診断書には、それは記入されていませんが。
- 検案調書、鑑定書にはちゃんと記載しました。傷の場所と状態も記憶しています。臀部、お尻の右側に長さが11センチ、幅が2.0センチメーターの軽微な擦過傷及び右の膝蓋骨の上縁だと思いましたが、そこに1.0掛ける0.7センチメーター大、右下腿前面の上部に1.0掛ける0.5センチメーターの極めて軽微な表皮剥脱でした。それは記載してあります。
- 市民病院から血液採取したものを警察官に届けているというように伺っていますが、先生の所には、血液は届いていないのでしょうか。
- どういうことですか。
- 血液を採取した残りを、遺体に付けて警察署に渡したという報告を受けていますが、先生の方にこの血液はいってないでしょうか。
- 来ていません。
- 主人の血液型は、何型かということは。
- 解剖時に採血して、血液型検査を行いました。
- 何型でしょうか。
- 記憶にありませんが、鑑定書に記載してあります。
- 頭は解剖していないと先ほどお答えいただきましたが、私は体全体を見ていますので、体も解剖されていないことは申し上げたいと思いますが、通常司法解剖といいますと、頭を解剖しない司法解剖ということは、先生は通常されていることですか。
- 通常はやっていません。しかし私なりの解剖方法はいろいろと取ります。本件は、直後に司法解剖ということになりましたが、頭、顔面に何ら損傷異状がなくて、ちゃんと検査をして、後頭下穿刺により脳脊髄液は水様、透明であり、少なくとも頭蓋内出血、髄膜の損傷、脳挫傷などは、ないということは完全に否定できますので、私はこういう事例については遺族感情ということも念頭において、なるべくもとの姿のような形でお返ししたいということで、頭は解剖しなかったのです。
- 私は法医学書を読んでの知識しかありませんが、それによりますと、頭を解剖しないことは有り得ないということが書いてありますが、これは監察医の自由になることと解釈してよいのでしょうか。
- 私は、先ほど申し上げたようなことから頭はやらなかったということで、法医学書には、有り得ないなどということは書いてありません。
- フロントガラスがクモの巣状にひび割れしているということは、頭をぶつけたと、私は警察からは言われています。
- それは私には分かりませんから、警察官から聞いてください。奥さんから頂いた写真には、自動車のバンパーやタイヤの状態の写真は、後に送ってこられたのを私は記憶していますが、フロントガラスについては、そのような損傷のあるという写真もありませんでした。
- 私は全部送ったつもりでおります。車の中に吐寫物がありますが、これは頭をぶつけたために吐いたもので、その部分ではどのようにお考えですか。
- 吐くということは、髄膜刺激症状ということでも吐きます。心筋梗塞というのは非常によく吐きます。それは私が日常経験していることで、心筋梗塞でも吐かないということはないということで、少なくとも髄膜の刺激症状はないと、否定できます。
- 私の調べた法医学の本なのですが、通常司法解剖というものは、写真も撮り、テープも取りというようなかたちで臓器を保存ということも書いてありましたが、そのテープはありますか。
- テープは取りません。昔は取りましたが、テープを聞いて記録を作り直すというよりも、頭の中に記憶しておいて直後に書いたほうがはっきりしています。テープを取るとか、先ほど言われたようなことは必ずしも定型的なやり方ではありません。
- 写真等から事故は確実にあったと思われますが。
- 例えば我々が電信柱にバンパーをぶつけたとか、フェンダーをぶつけたとかということでは、決して事故証明などは出ないと私は理解していました。しかし後に事故証明を出したということが摩訶不思議だと、私は思っています。
- 先生の所に遺体を運んだ方が私の方に見えまして、お会いしました。先生の所に伺っているのは、2時から先生の所に伺ったと、4時にはもう署に帰ってきているのですが、先生の所に現実に行ったのは、その時間帯ではないでしょうか。
- 違います。
- 私は4時に主人の遺体と対面しています。
- 違います。
- そのときに布が掛けられていたのですが、これは病院に行ってきた後ということではないのでしょうか。
- 救急車ですでに死体硬直が起きている、死斑も出ている状態の死亡者について、救急車が運んで市民病院へ行って、市民病院からお宅へ搬送したかどうか知りませんが、遺体の場合には身元の確認ということで、遺族に会わせるということは警察はよくやっているので、その段階のことだと、私は今ここでは理解しています。
- その当時、先生の方へは、警察署からはどのような連絡というものを。
- 単なる変死事件として承っています。
- 事故車であるということは、全然伝わっていなかったことと理解してよろしいのですか。
- 当初はです。
- 今はどのように感じていますか。
- その後に奥さんの方から、警察から出た事故証明のコピーを送って来られたので、そのときに事故でもあったのかと、それから先ほどフロントガラスの写真も送ってあると言いましたが、私の手に届いたのは今もって久保さんの一件書類として保存してありますので、送ってきてもらってはいません。
- 先ほど解剖した時間を7時40分から8時40分と伺っていますが、7時40分の時点では、遺体引き揚げにうちの方で保土ヶ谷署に向っているのです。自宅には8時40分に帰ってきています。これはどのようにお考えになりますか。
- その点は多少の誤差はあるでしょうし、葬儀屋さんがお宅の方へきたという話は、何という名前の人が来たかということを聞きたいのです。それからまた答え方もあります。
原告ら代理人
- 甲9号証の12(不服申立書添付の陳述書)を示す
先ほど私の尋問の中で出てきました高橋さんの陳述書ですが、「私は北原葬儀社の担当の高橋栄行です。平成9年7月19日伊藤監察医の所へ14時頃久保幹郎様の御遺体を搬送しました。解剖はしませんでした。16時頃保土ヶ谷署へ搬送しました。」と。
- この高橋というのは、私の所へはその日には絶対来ていません。
- 何でそう言えるのですか。
- 僕はよく顔を知っているのです。
- 高橋さんが間違っているというのですか。
- はい、そうです。
- 甲9号証の11(不服申立書添付の陳述書)を示す。
広田典礼(仮称)の広田(仮称)さんは、知っていますか。
- 知っています。
- 「平成9年7月19日土曜日保土ヶ谷警察署より、故久保氏の御遺体を搬送して8時20分ごろ自宅に着き、そのご会社内でご遺体を並棺から布棺に入替えした時にご遺体をさわり解剖の形跡は有りませんでした。」こう言っているのですが、これはどうですか。
- それは広田氏の判断だと思います。
- 広田さんが見れば、当然分かりますね。
- それは分からないと思います。
- 傷痕を見ても分からないと。
- 分からないと思います。衣類を着せてドライアイスで固まっていますから、それはもう分からないと思います。
- 甲第12号証(新聞記事抜粋)を示す。
この新聞で報道されている事件を、解剖担当されたのは先生ですね。
- 検死はしました。
- 検死をされたのは先生ですね。
- そうです。
- 甲第13号証(新聞記事抜粋)を示す。
不審死解剖せず、これも先生が検案された。
- その通りです。
- 心臓は保管しているということですね。
- プレパラートも保管しています。
- DNA鑑定をしたいと思っていますので、その場合には提供していただけるということはよろしいですか。
- 法律的な命令がありましたら、いつでもやります。それから先ほどの件ですが、私このような法廷でそういう話をしたら、いろいろな社会問題を発生するとは思いますが、業者も問題もありますし、高橋という男は前からよく知っていました。この前一番最後のTBSの放映で証言している姿を見て、高橋だなと思いました。彼はその当時は久保さんが変死体として発見されたときには、まだ花園葬祭(仮称)という所にいたはずです。その出店が北原葬儀社です。高橋は私の所へは絶対来ていません。それがどうしてかということが言えることは、業者というのは変死体を発見して検死なり、解剖なりに運びます。一方別働隊みたいに、別の従業員が、葬儀の話をつけに遺族の所に行くと、そういうことで行ったかも分かりません。解剖せずと大きく報道されましたが、これも私は真実をここで述べておきたいと思います。水死を検死だけで済ませたのは、完全なる偽装工作をしていて、だれが見ても入浴中の水死と思えるような状態です。その人は生きているときに、犯人からお金を引き出されたりしているということは、盗犯の方に相談に行っています。それも分からない、横の連絡のないまま変死体として発見された。もう一つ藤沢北署の関係の養老院については、骨折があるないということは、無資格の人がまず検死して、そしてカッターナイフか何かで切って、おかしいぞとか何とか言いましたので、私の所に運んでこられたので、これは完全に褥蒼もありますし、脳梗塞によって死亡したと、こういうことです。
被告代理人(東谷)
- 先ほど死亡原因として心筋梗塞と言われたのですが、肉眼的、病理組織的にも心筋梗塞と判断されたということですね。
- そのとおりです。
- 肉眼的にというのは、もう1度おっしゃってください。
- 肉眼的にということは、瘢痕化した灰白色をした部分と、新しく心筋梗塞をした出血とはちょっと違いますが、混濁という言葉をよく使いますが、そういう状態も見られた、ですから新旧種々ありました。
- 病理組織的にも心筋梗塞というようになっていますね。
- はい。
- 甲第9号証の5(不服申立書添付の死体検案書)を示す
この死体検案書の解剖の所見の書いてあるところに、その説明があるということでしょうか。
- 鑑定書に説明してありまして、それには書いてありません。
- この死体検案書の死亡の種類、病死及び自然死に丸がしてありますね。
- はい。
- これは先生が病死と判断されたということですね。
- そのとおりです。
被告代理人(渡部)
- 証人は亡くなられた久保さんのご遺体を、外部的に細かく観察されたというわけですね。
- そのとおりです。
- そのときに先生がご覧になって、亡くなられた久保さんが、強い衝撃を受けたとは思われないという判断をされたということですね。
- そのとおりです。
- それは、なぜそのように思われたのですか。
- 先ほど傷について説明したとおり、軽微な擦過傷と、軽微な表皮剥脱それだけで、場所も先ほど申し上げました。ですから強い衝撃を受けたということは言えないと思います。
- 先ほど先生が言われた3箇所以外には、傷はなかったということですね。
- 全くありません。
原告ら代理人
- 今回の交通事故と久保幹郎さんの死との関係ですが、因果関係は否定できないと先ほど言われましたが、それは現在の認識としても正しいですか。
- それは私はいわゆる急性内因死というのですか、急に亡くなる患者さんについての研究も、かつてしていましたので、それには直接な因果関係と間接な因果関係がある、この本件の場合にも間接的な因果関係は、全く否定することもできないと申し上げた次第です。それはどういうことであるかということは、もし質問があれば説明しますし、すでに鑑定書として詳しく記載して提出していますので、それの方を参考にしてもらっても結構です。
- 関係を否定できないという根拠を、簡潔に素人にも分かりやすく説明してもらえますか。
- 簡潔では答えられません。
被告代理人(渡部)
- 証人は、因果関係について、間接的には完全否定はできないという趣旨で証言していますので、先生のご質問だと因果関係を肯定しているかのように聞こえるのですが、そこら辺ちょっと。
原告ら代理人
- 科学者の立場として、否定できないというのは間違いないのでしょう。
- 完全には否定できませんと、先ほど申し上げました。
- その根拠を説明して下さい。
- 急性内因死というのは、潜在性にそして極めて慢性に経過した基礎的疾患を持っています。そういう人たちは全く自分で症状を感じない人、多少自覚症状があっても、これは医者にかかる程度ではないのではないかというように決めている人、そういう人たちがいろいろな間接的な誘因によって、つまり間接的な誘因によってある日突然として亡くなるのです。もちろん基礎的疾患があります。その誘因というのは具体的に何かというと、肉体的精神的労作、気圧の関係そういうものもあります。いろいろなもの、そういうものがすべて誘因になるのです。先ほどの原告代理人の質問に対して、私が完全には否定できないと言ったわけです。
- 今言った意味で誘因ともなり得るということですね。
- 完全には否定できないと、だけど基礎的疾患があると申し上げたのです。
被告代理人(東谷)
- 亡くなられた久保さんの基礎的な病変というのは、どういうのがあったと考えられますか。
- 心筋梗塞が、冠状動脈の硬化がずっと続いていて、その冠状動脈の硬化というものがあれば、あるいは臨床的に高血圧もあったのではないかと推測することができます。そういうような状態で経過してきて、急性の心筋梗塞も同時に起こして、詳しい説明は鑑定書に記載してありますので、後に手続きを踏んで参考にしてほしいのですが、そういう原因で新旧入り交ざった心筋梗塞、特に今回は新しい心筋梗塞が原因となって死に至ったのではないかと、このように私は肉眼的、病理組織学的検査から考えたわけです。
- いずれにしても先生の結論としては、病死だということは間違いないですね。
- 病死の範疇に属するわけです。
裁 判 官
- 外傷はあまりないということでしたね。
- はい。
- その程度の外傷しか生じさせない事故が引き金になって、心筋梗塞を発症するということも、考え得るわけですか。
- はい。
- それはよろしいわけですか。
- よくというほどではないですが、今までの仕事の経過中で見掛けることはあります。
- 立場上否定はできないという厳格な答え方をされると思うのですが、大体先生の判断として事故が引き金になって、心筋梗塞を起こしたというように認められる可能性は高いのか、それとも可能性としては否定できないけれども、その可能性は低いのだとお考えなのか、お答えはいただけますでしょうか。
- それについては何とも申し上げられませんが、そういうこともあり得るし、新規の不全を起こしていて、ぶつかって最後に心筋梗塞を起こしたという考え方も、できないことはないと思います。
- そうすると事故と全く関係なく、心筋梗塞を起こしている可能性もあるということはよろしいのですか。
- 驚愕ということも念頭に置けばです。
原告久保佐紀子
- 先ほどの腰の後ろの痕跡なのですが、これは医学書で調べましたら、腎臓あたりを強打した場合に、血液がそこに溜りやすいということで、かなり腎臓を打ったのではないかというようなことを私は感じていますが、いかがでしょうか。
- 私は、腰ということは全く申し上げていません。右臀部、お尻です。よしんば右腰部を打撲を受けてそこに血液が集まるというか、どういう意味か分かりませんが、それは腎臓破裂とか、あるいは血管の損傷とかいうことで硬膜下出血を起こした結果だと思いますので、そこに集まるということは私には理解できません。
- それは先生の方で見付かっていない部分で、市民病院の先生が見られた痕から、私は今お聞きしたのですが、もう一つこれも法医学書ですが、心筋梗塞という病名は、安易に書いてはいけないということも書いてありました。ということは、いろいろなことを調べたあげく、ほかのものに該当しないということで、しょうがなく出す所見が心筋梗塞で、安易に書くものではないというようなものを私は読んできました。それはどのようなご判断でしょうか。
- そういうように書いてある書物がありましたら、私に提示してほしいです。それは心筋梗塞の考え方と、今は少なくなりましたが急性心機能不全とか、あるいは今それがなくなった段階で今度は乳幼児急死症候群というのがあり、そういう場合に死因として付ける場合の消去論として、これも、これも死因とならないとして最後に残ったから急性心機能不全とかあるいはSIDSとかというような考え方のことが書いてあった書物ではないかと思います。
- 警察からほとんど何も聞かされていないということは、これは通常あることでしょうか。
- 通常は聞かされますが、本件に関しては、私は全く端的に言えば聾桟敷に置かれたといっても過言ではないと思っています。
- 斎藤さんからは、何も聞かされていなかったと私は判断してよろしいということでしょうか。
- そうだと私は記憶しています。
被告代理人(東谷)
- 甲第9号証の5(不服申立書添付の死体検案書)を示す
先ほどの質問で、死亡の種類は病死及び自然死ですね。その下に外因死、不慮の外因死というのがあり、交通事故、溺水、転落などといろいろあるのですが、これに丸をされてないということは、交通事故で死亡した可能性は低いと、先生は判断されたというように承ってよいでしょうか。
- 直接死因が交通事故とは言えないから、そのように書いたのです。
以上
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