神奈川県警に保土ヶ谷事件に係る質問を求める陳情
(平成18年6月)
この陳情は「陳情247号」として扱われ、7月6日の県議会・防災警察委員会にて「不了承」とされました。 よって、下記の@〜Cまで、一つも質問は行われず、県政と県民、また、まじめに働く警察官にとって、また一つ真相究明の機会が失われ、将来に禍根を残す、残念な日となりました。

「不了承」にした防災警察常任委員会の先生たち:
佐藤(光)委員長、馬場副委員長、山田(吉)委員、三好委員、国吉委員、小山委員、小林委員、木内(要)委員、手塚委員、斉藤(建)委員、滝田委員、益田委員、渡辺委員

※政党別参照ページはこちら

【付記】
これまで、保土ヶ谷事件に関する真相究明のための陳情は、今回を含めて5度ばかり行ってきましたが、あかま二郎議員(自民党)から数回質問して戴いた以外、全て徒労となりました。

捜査権のない市民にとって、警察による権力犯罪について裁判以外の方法で真相を解明する方法は、極度に限られています。この5年、神奈川県警は、監察ホットラインに電話をしても「係争中につきノーコメント」、苦情申立て制度を使っても「係争中につきノーコメント」を繰り返すばかりでした。 監察ホットラインも、苦情申立制度も、覚せい剤犯隠蔽事件その他、警察の内部犯罪に対する反省から生まれたものでは、なかったのか?

そして、議会までもが警察に遠慮し、おもねり、民主主義の道具は、全て使えないことが判明しました。ここは、本当に現代日本なのでしょうか。我々は中国や北朝鮮に住んでいるわけではないのです。国民は、このような血の通わない政治に対し、怒りを覚えなければならない、と思います。

HP管理人・萩野谷敏明


保土ヶ谷事件について、県議会より県警に対し、下記の質問をして戴きたいと存じます。
    事件発生当日の久保幹郎氏の状態から見て、
    @ 久保氏は警職法3条1項の救護義務に該当しないのか。
    A パトカーで駆けつけた警察官2名は、酒酔いかつ無免許/免許不携帯と認知した運転手を放置してパトロールに戻っても、警察官の職務として問題はないのか。
    B それがため事故車のなかで昏倒している運転手が2時間後に死亡しても問題がないのか。
    C 高瀬順治監察官室長が言った「発生時の対応の反省点」(4月25日毎日新聞)とは何なのか。

以下、上記について詳しく述べます。

1.警職法3条1項の救護義務違反は、地裁判決のなかの唯一合理的な判断
 平成18年4月25日、いわゆる保土ヶ谷事件について、横浜地裁が判決を下しました。
 すなわち、平成9年7月19日未明、事故車の中で昏倒していた久保氏は「身体に異常を来して相当重度の意識障害に陥っていたことは客観的にみて明らかであった(判決文P30)」ので、パトカーで現場に駆けつけた警察官2名(以下、「パトカー巡査ら」という)に、次の違反があったと認定しました。
 「(パトカー巡査らは)救急車を手配したり,自ら病院に搬送するなどの救護措置を採るべき義務を負っていたというべきであるから,単に幹郎は眠っているものと軽信し,何らの救護措置を採ることも,保土ヶ谷署や幹郎の自宅に幹郎の存在を報告することもなく幹郎を放置した行為は,個人の生命を保護する義務を負った警察官として,その義務を怠ったものといわざるを得ない。(判決文P31)」
 この判決は、後述するように2度のDNA鑑定結果を否定するという、非科学的な根拠に基づくでたらめな判決であり、保土ヶ谷事件を取り巻く、より大きな神奈川県警による組織的隠蔽工作から殊更に目をそらし、単にパトカー巡査ら2名の救護義務違反に問題を矮小化するものでしかありませんでした。
 しかしながら、そのでたらめな判決のなかでも、僅かに合理的に認めたものが、警職法3条1項の救護義務違反でした。判決文は、次のように述べています。
 「警察法2条は,警察官の責務として『個人の生命,身体及び財産の保護』を定めており,警職法3条1項2号は,これに関連して,警察官が,異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して,迷い子,病人,負傷者等で適当な保護者を伴わず,応急の救護を要すると認められる者に該当することが明らかであり,かつ,応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者を発見した場合には,これを保護しなければならないとして,警察官の保護義務を定めている。ところで,上記『迷い子,病人,負傷者等』とは,自救能力のない者の例示であると解されるから,警察官は,周囲の事情から合理的に判断して,生命,身体及び財産に危害が及ぶ切迫した危険があり,自分では危害から身を守ることができず,応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者を発見した場合には,その者を保護する義務を負っており,警察官が,このような者を発見しながらこれを保護しなかった場合には,救護義務の違反があったものとして不法行為責任を免れないというべきである。(判決文P29)」
 これは当然でしょう。もしも、警察官2名の言うことが真実であれば、警察官らは久保氏の肩、膝を叩き「起きて、起きて」と呼びかけたにも係らず、久保氏は目を覚ますことなく、一言も言葉を発せず、そのまま2時間後には死亡しているのです。
2.県警は何が不満で控訴をするのか
 しかしながら、この警職法3条1項違反について、神奈川県警は、判決の当初こそ、高瀬順治監察官室長が「判決は厳しく受け止め、亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げる。発生時の対応に反省点もあり、本事案も踏まえつつ警察改革に取り組んでいる」(フライデー5月26日号)と言いながら、その僅か2週間後には、同じ高瀬順治監察官室長が「久保さんは法令に基づく保護対象者と認めることは困難」とマスコミに発表(毎日新聞他)し、県警として控訴をするとしています。
 判決に不満があるから控訴をするのでしょう。いったい、高瀬順治監察官室長がいう「発生時の対応の反省点」とは何なのでしょうか。判決の何について「厳しく受け止め」たのでしょうか。「反省」が監察官室長の失言でないのなら、県警は何を「反省」し、何を「厳しく受け止め」たのか、県議会から、聞いていただきたい。
3.県警の主張を議会が追認・黙認するなら、警察官によって助かる市民はいない
 もし、パトカー巡査らによる救護義務違反すら、神奈川県警が不服として認めないなら、交通事故に遭い、警察官に発見されて助かる市民はいません。
 路上で損傷著しい車内に意識不明の人がいたら、警察官はパトカーで病院に搬送したり、救急車を呼んだりしなくてよいのでしょうか。(パトカー巡査2名の懲戒処分理由は、現場での措置の報告が簡略だったというものであり、車の中に人がいたことを署に報告せず、久保氏の扱いが不適正であったという理由は、入ってないとしています。)
 それでもよいという自動車教習を、神奈川県警はしているのでしょうか。交通事故に遭っている人を見たら、特に重篤者でなくても、けが人を安静に保ち、救急車を呼べと一般ドライバーには指導しているではありませんか。
 しかしながら、これまで明らかになっている県警の主張は、「久保氏は救護義務の対象者ではない」「救急車を呼ぶ義務はない」「本人が救護の必要がないと述べるのを確認する必要もない」というものです。パトカー巡査らによって、久保氏は、どこの誰とも、姓名の確認すらされていないのです。
 県警による控訴は、これらを適切な警察官の行動だと認めて欲しい、というものです。
 このようなことは、常識的・合理的判断からしても、市民感情からしても、到底、受け入れることのできないものであり、人命軽視の非理非道というべきものです。県議会は、県警による、この主張を追認または黙認されるのでしょうか。
 県議会が、県警のこの主張を追認もしくは黙認するのかどうかは、警察官が、瀕死の状態にある人を発見した場合、どのように行動するべきかという意味において、神奈川県民の生命の安全に直結する問題であり、優れて行政の問題、ひいては政治の問題であり、裁判とは別個の問題ではないでしょうか。
4.保土ヶ谷事件の真相は死体遺棄事件の隠蔽工作
 保土ヶ谷事件は、久保氏がいったん保土ヶ谷署に連行され、署内で死亡していると考えなければ理解できません。
 パトカー巡査ら2名の証言を真とするなら、酔っ払いかつ無免許(または免許不携帯)の運転手を発見しながら「目が覚めれば自力で帰宅できると思って」現場に放置し、彼らは警ら活動に戻ったことになります。
 そんなことを信じる人が、世の中にいるでしょうか。警察官らは、酔っ払いと思ったと言いながら、ビニール袋に息を吹き込ませて検知管でアルコール濃度を測ることもせず、息を嗅いで酔いの程度を推し量ることさえしていないのです。(久保氏の血液から、アルコールは検出されていないので、「酒酔い」との認識が本当にあったのかも疑わしい。)
 この二人がウソをついていて、久保氏を本当に酔っ払いと勘違いしたか、あるいは、車の損傷は何が理由で出来たのかを聞くため、久保氏を保土ヶ谷署に連行したと考えるのが自然なはずです。
 その具体的証拠は、未明のパトカー出動で発見されず、午前11時の救急車出動で発見されず、正午前後に現場で行われた実況見分で発見されなかった免許証が、突如、午後1時半、保土ヶ谷署に車がレッカー移動された直後に、車内から発見されていることです。
 免許証は、車内から発見されたのではなく、従前から保土ヶ谷署内にあったものを車の中に置いたと考えなれば、久保氏が横浜市民病院で身元不明体として扱われ、実況見分で免許証が発見されなかった理由が成り立ちません。
 免許証だけが保土ヶ谷署に移動し、本人が移動しないことは有り得ないから、免許証と久保氏本人は、救急隊の出動以前、実況見分以前に保土ヶ谷署に移動していると考えるしかありません。
 久保氏の死亡推定時間は午前3時です。署内で久保氏は死んでしまった。救急車も呼ばなかった。この不始末を隠蔽せんがため、保土ヶ谷署員らは、久保氏の遺体を現場に戻し、夜が明ければ第三者に発見させ、心筋梗塞による死亡として扱おうとしたと強く推認されるのです。
5.失われた司法解剖の信用性、警察への信頼
 県議会の議員の方々には、これは民事の裁判だから、行政や政治は口出しすべきではないと考える向きもあるかもしれません。
 しかしながら、保土ヶ谷裁判を通じて、神奈川県は重要なものを失いました。
 それは、「司法解剖の信用性」や「警察への信頼」です。横浜地裁が自ら行ったDNA鑑定を採用せず、裁判所に提出された臓器が久保氏のものだと認定しても、それで広い世の中が、そのまま受け取っているわけではありません。
 日大・押田教授と筑波大・本田教授による2つのDNA鑑定を合わせれば、通常は2つのDNA部位で異なれば他人のものと断定されるところ、実に6部位で異なり、性別は異なり、血液型も違うのです。もしもDNA鑑定結果が正しいものと認定されていたならば、司法解剖有りとの信用性を直撃し、解剖に立ち会ったという警察官の供述の信用性を直撃したことでしょう。
 しかし、司法の判断とは関係なく、「2度のDNA鑑定を否定した」という、ごく分かり易いメッセージは、その異常さのゆえに、日本全国に知れ渡ってしまいました。恐らくは百人が百人、判決をおかしいと感じ、そうまでして守ろうとしたものは何かと、既に事件の本質を見抜いてしまっているのではないでしょうか。甚だしい意見としては「神奈川県では、監察医が法廷に他人の臓器を出し、これをDNA鑑定で見破られると、今度はDNA鑑定そのものができたはずがないと裁判所が言い出し、こうして真相を隠蔽する様は、まるで北朝鮮のようだ」というものさえあるのです。
この状態から、誰が、どのようにして、立ち直らせると言うのでしょうか。いったんついたウソが雪だるま式に膨らみ、誰も止められなくなっている県警でしょうか。無理に振りかざした権威のゆえに、かえって信用を失墜させている司法でしょうか。
 陳情人は、県民の代表である議員の方々の、正義の心に訴えたいと思います。北朝鮮にも擬せられた、神奈川県の今の状況を変え得るものは、もはや、それしかありません。

平成18年6月27日

神奈川県議会 中村省司 殿

横浜市鶴見区(番地等略)  萩野谷敏明 


(参考)

警察官職務執行法 第三条  (保護)

第三条  警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して左の各号の一に該当することが明らかであり、且つ、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者を発見したときは、とりあえず警察署、病院、精神病者収容施設、救護施設等の適当な場所において、これを保護しなければならない。


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