添付写真は元はカラーであるところ、裁判所には白黒のコピーで提供
されたので、白黒のままです。
⇒この件を報じた新聞記事
1.鑑定試料
- (1)
- 平成15年9月17付けで横浜地方裁判所から押収した心臓、その他の臓器の組織片、ブロック標本及びプレパラート標本
- (2)
- 久保佐紀子、久保幹彦(仮称)、久保幹之(仮称)、久保幹也(仮称)の血液
2鑑定事項
よって、筑波大学法医学研究室において、DNA検査を実施し、その結果に基づき本鑑定書を作成した。
- (1)
- 前記臓器ないし標本と、久保幹郎の妻久保佐紀子、その子である久保幹彦、久保幹之、久保幹也の血液とのDNA鑑定、その他の方法により、前記臓器ないし標本に久保幹郎の死体の一部が含まれていることが認められるか。
- (2)
- 前記臓器ないし標本から、その死体の死因は何であると考えられるか。
- (3)
- その他、本件に関し参考になる事項一切
DNA鑑定のためのPCR増幅(ポリメラーゼ連鎖反応)は以下のように設定した。まずわれわれが独自に開発したPCR-SSCP法を用いてABO式血液型遺伝子の型判定を行った(DNA多型11、東洋書店、参照)。 この方法により、血液型遺伝子は、 (AO,AOA,AOG, BB,BOA,BOG, OAOA, OAOG, OGOG,AB) の10種の型に分類される。
それとともに、ホルマリン固定した心臓片から、解離試験により血液型を確認し、両者の同一性を確認した。続いて性別を判定するため、アメロジェニン領域のPCRを行った。続いて、性染色体STRによる型判定を行った。X染色体については、自験例を豊富に有するARA、STRX1、HPRTBの3ローカスにつき検査した。Y染色体については、われわれが国際YSTRワークショップにて共同研究を進めているYSTR-extended-haplotype formantに従い、DYS19, DYS389I, DYS389II, DYS390, DYS391, DYS392, DYS393, DYS385, YCAIIの9ローカスにて検査した。
なお、検査はすべて、2種のシークエンサ(ファルマシア社製ALF-expressおよびABI PRISM377)を用いて行った。したがって蛍光ラベルは、ファルマシア社製用にCY5でラベリングし、ABI社製は6-FAM, HEX, TETにてラベリングした(SIGMA GENOSISに発注)。
また、親子鑑定のための常染色体STR検査としては、ALDH(アルデヒド脱水素酵素DNA多型)、CCK遺伝子(コレシストキニン遺伝子)多型について検査を行った。さらにACTBP2(SE33), THO1,VWF部位について検査を行った。
なお、いずれも型判定はGeneScan 500マーカーにより、GeneScan Analysis Software ver.3.1.2により解析し、さらにそれぞれの部位に対応したアレリック・ラダー・マーカーとの比較およびABI PRISM377によるダイレクト・シークエンスにて確認した。
なお、ホルマリン固定された心臓3ヶ所(左心室前壁、中隔、側壁) パラフィンブロック3片(左心室前壁、右心室前壁、乳頭筋)のいずれも、19/26型(251bp/281bp)であった。(図23)
THO1では、久保幹郎の妻久保佐紀子は10/10型(199bp/199bp)、その子である久保幹彦は9.3/10型(196bp/199bp)、久保幹之は9.3/10型(196bp/199bp)、久保幹也は6/10型(183bp/199bp)であった。
なお、ホルマリン固定された心臓3ヶ所(左心室前壁、中隔、側壁) パラフィンブロック3片(左心室前壁、右心室前壁、乳頭筋)のいずれも、7/7型(187bp/187bp)であった。(図24)
VWFでは、久保幹郎の妻久保佐紀子は18/19型(158bp/162bp)、その子である久保幹彦は18/18型(158bp/158bp)、久保幹之は18/18型(158bp/158bp)、久保幹也は18/19型(158bp/162bp)であった。
なお、ホルマリン固定された心臓3ヶ所(左心室前壁、中隔、側壁)パラフィンブロック3片(左心室前壁、右心室前壁、乳頭筋)のいずれも、17/18型(154bp/158bp)であった。
CCK多型では、久保幹郎の妻久保佐紀子はCC、その子である久保幹彦はCT型、久保幹之はCC、久保幹也はCTであった。
なお、ホルマリン固定された心臓3ヶ所(左心室前壁、中隔、側壁) パラフィンブロック3片(左心室前壁、右心室前壁、乳頭筋)のいずれも、TTであった。(図26)
ALDH多型では、久保幹郎の妻久保佐紀子はND型、その子である久保幹彦はND型、久保幹之はNN型、久保幹也はND型であった。
なお、ホルマリン固定された心臓3ヶ所(左心室前壁、中隔、側壁)パラフィンブロック3片(左心室前壁、右心室前壁、乳頭筋)のいずれも、NN型であった。(図29)
本件において鑑定に用いたホルマリン固定された心臓3ヶ所(左心室前壁、中隔、側壁)パラフィンブロック3片(左心室前壁、右心室前壁、乳頭筋)のDNA型はすべて同一で、また、形態的にも矛盾はないことから、すべて同一個人に由来すると考えてよい。また、これらの試料は、ホルマリン固定臓器の解離試験でB型、PCR-SSCP検査にてBOA型と判定できることから、血液型はBOA型である。
さらにアメロジェニン鑑定で、Xバンドは増幅されてもYバンドは増幅されなかったこと、2種のXSTR検査(ARA, STRX1)でXX型と判定できたことから、女性であると判定できる。つまり、本件試料の心臓は明らかに血液型B型の女性に由来する臓器である。
また、親子鑑定については、まず久保佐紀子と、久保幹彦、久保幹之、久保幹也の母子関係としてはすべての検査で否定されなかったので、父子鑑定の前提条件は否定されなかった。次に父子鑑定については、もし仮にこの試料が由来する個人が男であると過程しても(現実にはありえない)、ABO式血液型遺伝子、ALDH型のみではこの父子の組み合わせに矛盾はない。しかしながら、CCK多型では、久保幹郎の妻久保佐紀子はCC、その子である久保幹彦はCT型、久保幹之はCC、久保幹也はCTである。
なお、ホルマリン固定心およびパラフィンブロック3片ではTTである。したがって、久保佐紀子はCCで久保幹之はCCであることから、久保幹之の父は必ずC遺伝子を有しなければならない。しかし、ホルマリン固定心臓およびパラフィンブロック3片ではTTであるため、したがって、本件鑑定試料である心臓が由来する故人は、久保佐紀子を母とする久保幹之の父ではありえない。
なおACTBP2(SE33)にて検査を行ったところ、久保佐紀子は26/28型、その子である久保幹彦は16/26型、久保幹之は16/28型、久保幹也は16/28型であることから、その父は16型遺伝子を有しなければならない。しかしながら、ホルマリン固定心、およびパラフィンブロック3片では19/26型で16型を有しない。したがって、本件鑑定試料である心臓が由来する故人は、久保佐紀子を母とする久保幹彦、久保幹之、久保幹也の、いずれの子供の父親でもありえない。
同様の矛盾する親子関係の結果は、THO1でも得られた。その結果は、久保幹郎の妻久保佐紀子は10/10型(199bp/199bp)、その子である久保幹彦は9.3/10型(196bp/199bp)、久保幹之は9.3/10型(196bp/199bp)、久保幹也は6/10型(183bp/199bp)であるため、父親は6/9.3型以外にありえない。
なお、ホルマリン固定された心臓3ヶ所(左心室前壁、中隔、側壁)パラフィンブロック3片(左心室前壁、右心室前壁、乳頭筋)のいずれも、7/7型(187bp/187bp)である。したがって、本件鑑定試料である心臓が由来する故人は、久保佐紀子を母とする久保幹彦、久保幹之、久保幹也の、いずれの子供の父親でもありえないことが示された。
第四章DNA検査および第五章 説明に基づき、以下のように鑑定する。
鑑定事項
回答:
横浜地方裁判所から押収した心臓、その他の臓器の組織片、ブロック標本併せて6片につきそれぞれ、血液型解離試験および19種類のDNA検査を、ABI社製DNAシークエンサ及び、ファルマシア社製シークエンサの2種類の機器で検査を行った。その結果、これらの結果はすべて合致し、血液型はBOA型で染色体はXX型で女性由来の試料と判定される。
したがって、本件鑑定試料である、ホルマリン固定心およびパラフィンブロック標本は、男性である久保幹郎由来の部検試料ではありえないと判定される。
また、常染色体検査では、上記試料が仮に男性であると仮定しても(現実にはありえない)、CCK検査及びACTBP2検査、THO1検査のいずれによっても、本試料が由来する故人は、説明で示した理由により、久保佐紀子を母とする久保幹彦、久保幹之、久保幹也の、いずれの子供の父親ではありえない型であると判定される。
したがって、仮に父子鑑定として行っても、本件鑑定試料である、ホルマリン固定心およびパラフィンブロック標本は、男性である久保幹郎由来の部検試料ではありえないと判定される。
なお、本件の鑑定試料が女性由来のものであるから、父子鑑定を行うことは無意味であるが、 性別判定で女性であったという前提なしにも父子鑑定が否定されうることを示すために、あえて実施した。 (結果は下記の表にまとめて示した)
平成16年3月25日 筑波大学社会医学系法医学教授 本田克也 (印)
図15,16 | 図17 | 図18,19 |
図20 | 図21,22 | 図23,24 |
図25 | 図26 | 図27 |
図28 | 図29 | |
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