ティーエスエル社鑑定(乙ーB第19号証)

注意:以下は「乙-B第19証」の副本からタイピング起こししたものです。


第一東京弁護士会
斉藤 榮 先生

 平成16年4月21日にご依頼のありました、検体の個体識別につきまして、ご提出いただいた数種類の検体から何度か検査を行いましたが、再現性のある検査結果を得ることができず、性別およびSTR型の判定をすることはできませんでした。以下に、検査の経緯を説明いたします。

 平成16年4月21日に斉藤弁護士よりご出検いただいたパラフィン包埋組織より、ミクロトームにより厚さ10μmの薄切片を5枚切り出しDNA抽出の材料としました。DNA抽出は、キシレン処理によりパラフィンを除去した後、QLAGEN社のDNA抽出キットであるQLAamp DNA mini kitを用いて行いました。抽出したDNAよりApplied Biosystems社のDNA個人識別キットであるAmpFISTR SGM Plus PCR amplication kit (以下、SGMキットと記します)を用いて、個人識別マーカーであるSTRローカス10ヶ所と、性別判定マーカーであるAmelogenin遺伝子の解析を試みました。しかしながら、抽出したDNAからはSTR型およびAmelogenin型を検出することはできませんでした。このため、本事例では性別判定のみの解析でも有用な情報になると判断し、Amelogenin遺伝子のみを検出するPCRプライマーを作製し、Amelogenin型のみの解析を試みましたが、再現性のある結果が得られず、性別を判定することはできませんでした。(再現性を確認するためにDNA再抽出からも含めて複数回の検査を行った結果、Xのみが検出される「女性」を示す結果と、XとYの両方が検出される「男性」を示す結果の両方が得られ、結果の再現性を得ることができませんでした)。これらの結果より、4月21日にお預かりした検体からは性別および個体識別ができなかった旨の連絡をいたしました。

 平成16年12月に斉藤弁護士より新たにご出検いただいた、ホルマリン固定臓器(2検体)、パラフィン包埋組織(4検体)より、SGMキットを用いた個人識別および性別判定を試みました。

 ホルマリン固定組織からは、法医学検体用にデザインされたPromega社のDNAIQキットを用いてDNA抽出を行いました。抽出されたDNAよりSGMキットによる解析を試みましたが、STR型及びAmelogenin型を検出することはできませんでした。

 次に、パラフィン包埋組織から上述のQIAamp DNA mini kitを用いた方法によりDNAを抽出し、SGMキットによりSTR型およびAmelogenin型の判定を試みました(別紙の表をご参照下さい)。その結果、ブロックNo.2, No.4, No.5からはSTR型及びAmelogenin型を検出することはできませんでしたが、ブロックNo.8からSTRローカスのD19S488において(13)、TH01において(9)、性別判定のAmelogenin型は(X/Y)が検出されました(表中@)。このため、さらにこのDNAをミリポア社のMicrocon-Y30カラムを用いて濃縮し、再度SGMキットで解析したところ、STRローカスのD19S433は(13/15.2)、TH01は(7/9)となり、新たにD3S1358は(15/17)、vWAは(18)、D8S1179は(10/12/13/15/16)、D21S11は(29/30)、D18S51は(14)が検出されましたが、Amelogenin型は(X)のみになりました(表中A)。なおD8S1179の結果は非特異的な増幅が生じたと考えられますが、その原因については不明です。これらの結果の再現性を確認するために、DNA抽出から再検査を行いましたが、その結果は、D19S433は(15.2)、TH01は(6)、D3S1358は(15/16)、vWAは(14)、D16S539は(9)、D21S11は(30)、D18S51は(17)となりました(表中B)。D3S1358とTH01においては両者で3種類以上の型が検出されたため、再現性を確認することはできませんでした。またAmelogenin型は検出されませんでした。

 再度、より微量検体から高濃度にDNAが回収されるようにデザインされたDNA抽出キットであるGLAGEN社のQIAamp DNA micro kitを用いて、パラフィン包埋組織4検体からそれぞれDNA抽出を行い、SGMキットによる解析を行いました。その結果、ブロックNo.4とブロックNo.8からいずれもAmelogenin型(X/Y)が検出されましたが、STR型は検出されませんでした(表中C、D)。

 以上の結果より、複数のSTRローカスにおいてSTR型が検出されましたが、再現性が得られず、STR型を判定することはできませんでした。また、性別判定のAmelogenin型においても、男性を示す(X/Y)型と女性を示す(X)型の両方が検出され、再現性を得ることはできませんでした。(X)のみが検出された検査においては、非特異的に(Y)が検出されなかった可能性も考えられますが、同時に反応を行った個人識別のSTR型解析においても同一試料より再現性のある結果が得られなかったことより、Amelogenin型の結果についても判定を保留いたしました。

 本事例においては、合計7検体を用いて検査を行いましたが、個人識別のSTR型および性別判定のAmelogenin型ともに結果の再現性が得られず、個人および性別を判定することはできませんでした。また、本事例において当社で検出されたTH01の3つのSTR型 (6/7/9)は、他施設(筑波大学法医学教室)の鑑定書の「子ら」から推定される父の型(6/9.3)のうちの(9.3)を含んでおらず、組織が「子ら」の父由来であることを確認するデータは得られませんでした。

 ホルマリン固定された試料は、ホルマリン固定中にDNAの分解が起こるためにDNA解析が難しい試料の一つであることは確かです。また、本検査では、検出感度を上げるためにバックグランドを抑える工夫はいたしましたが、非特異的なPCR産物を増幅する可能性があるPCRサイクル数の増加はいたしておりませんので、複数の結果が得られた原因については、試料に接触した人由来のDNAが検出された可能性も考えられます。しかしながら、他施設(筑波大学法医学教室)において、同試料から再現性のある結果が得られていることを鑑みると、当社の技術不足が原因である可能性は否めません。

 検査のご依頼から検査にほぼ1年間もかかってしまった上に、解析結果が得られないという報告になってしまい、ご依頼者の斉藤先生をはじめ当事者の方には大変に申し訳なく思っており、心より陳謝したします。

平成17年4月5日
株式会社ティーエスエル
遺伝子病理部
神山清文 (印)


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