横浜検察審査会・公示書面全文(平成15年1月23日)
―不起訴不当議決―


平成14年横浜検察審査会審査事件(申立)第57号〜第58号
申立書記載罪名 保護責任者遺棄致死
検察官裁定罪名 保護責任者遺棄致死
議 決 年月日 平成15年1月23日
議決の要旨
審査申立人 久保佐紀子
代理人弁護士    
    大野 裕   
    今村 核   
    中西一裕

被疑者 村井 学
被疑者 青地隆宏

不起訴処分をした検察官 横浜地方検察庁 検察官検事 土持敏裕

上記被疑者らに対する保護責任者遺棄致死被疑事件(横浜地検平成10年検第9575号〜第9576号)につき、平成12年2月23日上記検察官がした不起訴処分の当否に関し、当検察審査会は、上記申立人の申立てにより審査を行い、次のように議決する。
議決の趣旨
本件不起訴処分は不当である。
議決の理由
1.被疑事実の要旨

 被疑者村井学及び同青地隆宏はいずれも神奈川県警察保土ヶ谷警察署警察官であるが、被疑者両名は、平成9年7月19日午前零時ころ、横浜市保土ヶ谷区岡沢町(番地略)前路上で発生した交通事故の事故処理を行った際、事故により同所に駐車中の車両内に口を利くこともできない状態で倒れていた久保幹郎(当時54歳)を発見し、同車両の左前輪が破裂し、運転席フロントガラスには蜘蛛の巣状のひび割れがあるのを認識したのであるから、警察官職務執行法第3条第1項に基づき同人を保護しなければならないのに、生存に必要な保護を何ら加えないまま同人をそのまま同車両内に放置し、よって、同日午前3時ころ、同所付近において、同人を上記交通事故による負傷により死亡させたものである。

2 検察審査会の判断

 当検察審査会は、申立人提出の申立書、ビデオテープ等の参考資料並びに検察官提出の不起訴裁定書及び同事件記録を精査した上、慎重に審査した結果、本件不起訴処分を不当とする理由は、次のとおりである。

(1)検察官は、被疑者両名が被害者を直ちに救護しなければ生命・身体に危険が生ずるとの認識は有しなかった旨の弁解を覆すことは困難であると主張するが、

  •  本件車両は、通行量が多い主要交差点の右折専用車線の停止線付近で、ハザードランプを点滅させて停車していた。
  •  フロントガラスの運転席前部分が蜘蛛の巣状に割れ、左前輪タイヤがパンクし、前部のバンパー両端が凹損していた。
  •  被害者は、座席で意識不明の状態で倒れていた。
  上記の状況からして、一般人が冷静に判断したならば、被疑者両名は、運転していた被害者が自車のフロントガラスに頭部を強打した可能性を推認すべき客観的状況下にあったと考えられ、被害車両を道路脇へ移動したのみで被害者をそのまま放置したことは、極めて不適切な行為と考えられる。

(2)被疑者両名は、事故ないし犯罪の可能性も想定して、まず現場を保存し、実況見分等も行った上で車両を移動すべきところ、位置の特定さえしないまま同車両を移動しており、事故ないし犯罪処理の基本を怠っていると考えられる。

(3)被疑者両名は、車両内部から酒のような臭いを感じた旨弁解しているが、被害者の体内からアルコールは検出されておらず、被害者を「酒酔い状態」と誤認していたとすると、道路交通法に違反する虞れのある被害者をそのまま見逃して放置したことになり、被疑者らの供述は信憑性が薄い。

(4)検察官は、民事事件において、鑑定人から提出された「遺族から推定される被害者のDNA型と矛盾する。」旨の中間報告を、あくまでも中間報告に過ぎないと主張し、「過失と死亡との因果関係を認定することは困難。」だと結論付けしているが、鑑定結果の推移次第では、死因等に重大な影響を及ぼすものと考えられ、同鑑定の最終的な結論が判明する前に、「不起訴処分」を維持するとした判断は早計に過ぎると思料される。

以上の点から、検察官の再考を求めるため、上記趣旨のとおり議決する。

平成15年1月23日
横浜検察審査会


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