エッペンドルフ社マイクロダイゼクタ
(本田鑑定で使用したもの)
【解 説】
横浜地裁は、その判決に於いて、@組織片がどの程度、低分子化していたのかという科学的根拠を示さないまま、ホルマリン固定臓器・ブロック標本はホルマリンの影響を受けて低分子化していたから、押田鑑定と本田鑑定において、DNA鑑定ができたはずがないと決め付けた。更に、A「私的鑑定」において鑑定ができなかったこと、また、押田鑑定においてSTR検査が不可能であったこと、鑑定に長期の時間がかかったことを理由として、なぜ本田鑑定においてSTR検査ができたのか、疑問を感じざるを得ないとして、本田鑑定の信用性を否定した。
  そこには、技術力の違い、技術の進歩、設備の違いなど、個々の事情に関する何らの考慮もなく、しゃにむにDNA鑑定を否定したいという意図が見て取れる。
  横浜地裁の裁判官は、二人の経験豊富な大学教授をしのぐほど、DNA鑑定に通じているとでもいうのだろうか。3つのローカスでアリールが3本も4本も抽出され、明らかにコンタミネーションを起こしている「私的鑑定」(被告監察医が、独自に民間企業に鑑定を依頼したもの)を用いて、公の立場で行われた押田鑑定と本田鑑定に難癖をつける材料に使うなど、およそ公平中立な裁判とは言えない。(「私的鑑定」がコンタミネーションを起こしている状況については、下記「参考資料」を参照。)

  では、なぜ押田鑑定においてSTR検査ができず、本田鑑定においてできたのか。本田鑑定と押田鑑定との間の決定的な違いは、当初の細胞の取り出し過程において、マイクロダイゼクタを使用していることであろう。 非常に高価な機械のため、これを備えている研究機関は限られている。 本田鑑定では、これを用いて、腐敗または低分子化が進んでいる細胞をよけ、正常な細胞のみを取り出したのち、ポリメラーゼ連鎖反応によってDNAを増やしたものと思われる。

マイクロダイゼクタとは、病理学検査やDNA・RNA検査のため、欲しい細胞や細胞核だけを組織片から切り出す機械をいう。例えば、ある組織片からガン細胞だけを取り出して研究に使いたい場合や、腐敗の進んでいる組織片から、正常細胞だけを取り出してDNA・RNA検査をする場合等に用いられる。薄切りした組織片に対し、フィルムに熱照射で貼り付けて切り取るレーザー式と、高周波振動を与えた微小チゼルで切り取るマイクロ・チゼル式に大別される。レーザー式は、切り取る細胞に熱を与える難点があるとされる。本田鑑定では、細胞に熱を与えないように、マイクロ・チゼル式を用いている。

文・HP管理人

レーザー照射式マイクロダイゼクションの例
出典:Molecular Machines & Industries社のページ。
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マイクロ・チゼル式マイクロダイゼクション
出典:エッペンドルフ社のHPの製品紹介コーナーより。
微小チゼルで細胞核を切り取り、吸引ピペットに入れているところ。



甲73号

《翻訳文》 《元原稿》
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エッペンドルフ社バイオニュース 応用ノート

Piezo-Power Microdissection: PPMDシステムの応用2例

例その2:

がん研究−ヒトの肺臓がんからの細胞組織域の単離

Axel Niendorf & Michael Harsch (MEDEEA Forschungs GmbH, Hamburg, Germany)

試料の準備
新鮮な腫瘍組織片をホルムアルデヒド4%緩衝液で固定、パラフィン包埋するか、もしくは液体窒素で凍結ののちマイナス80℃で保存したものを使用した。

マイクロダイゼクションのため、ミクロトームを使って10-μmの切片を切り出し、スライドグラスに移動させた。(Harsch 他, 2001).

マイクロダイゼクション
微細マニピュレータTransfer-R Manを使って、微小チゼルと吸引ピペットの両方を操作した。解離作業の間、各低温切開片は、15μl のキシロールでコーティングしておいた(図1参照)。

微小チゼルを使って、対象域を切り出した。切開の幅は約10μmなので、周囲の組織を傷つけなくて済み、従って、それら残余の組織は後刻の研究に供することができる。

微小チゼルと組織片の間の相互作用に対応させるため、周波数は25-55KHz 振幅は0-2μmに設定した。吸引ピペットを所定の位置に装着し、切片を連続的に採取した。これにより、組織片の切開と吸引は同時に行われた。

マイクロダイゼクションの初期の段階では、対象組織の約10-20μm の位置にFiltertip MDSを配置させた。Filtertipの弾力性と直径0.15mmというサイズにより、組織片への損傷を避けることができた。こうして我々は、連続吸引により、約15μlの量を切り出したことで、6分間に5,000個の細胞を採取することができた。

極めて硬い腫瘍組織に於いても、微小チゼルは弾力性を保持している(データ掲載なし)。

図2は、ヒトの結腸粘膜から細胞域を採取するマイクロダイゼクションを示している。

下流プロセスでの応用
PPMD法で採取した組織試料を使えば、後刻の検査は、あらゆる標準的な下流プロセスに於ける応用が可能である。

この方法の有効性を示した典型例は、最近行われた、ヒトの肺がん腫瘍組織から柔細胞および間質細胞を取り出し、mRNAの発現差異を確認した研究に示されている。

参考文献
「ヒトの肺がん腫瘍組織におけるmRNAの発現差異に示す、超音波振動針を使った組織学的マイクロダイゼクションの新しい方法」
Harsch, M., Bendrat, K., Hofmeier, G., Branscheid, D., & Niendorf, A. Amer. J. Pathol., Vol. 158, No. 6, June 2001

(訳者注)
ミクロトーム(薄切片作成用の微動試料送り装置)
μmは千分の1ミリ。ヒトの細胞核は直径5-20μm。
Filtertip MDS エッペンドルフ社製マイクロダイゼクタのアクセサリの一つ。切り出した細胞の回収器。


甲75号

《翻訳文》 《元原稿》
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P.1

Molecular Technologies

MicroDissector PPMD (Piezo-Powered Microdissection)

応用
下記試料からの細胞域、微細な細胞グループ、個別の細胞の単離まで可能。
  • 新鮮組織
  • 組織学的切片
  • 植物
  • 培養細胞
製品特徴
PPMD式薄切り装置と電子制御のピペットからなる、フレキシブルなモジュラー・システム。
  • 試料の迅速かつ正確な切り出し。
  • 事前の処理をすることなく、全ての通常の試料に適用が可能。
  • 厚さ僅か数μmから顕微鏡による微細領域まで何ら問題なし。
  • 熱および紫外線による試料への影響なし。Tissue Engineering(組織工学)のための生体細胞の単離さえも可能。

PPMDの機能原理
新考案の超音波Piezostepperの採用により、超微細な金属針(微小チゼル)を高周波かつ低振幅で作動させます。これによって、普通の生体試料であれば、軟骨・骨組織さえも迅速かつ正確に切ることが可能となりました。

個別の設定により、細胞、細胞組織、細胞グループの単離が行えます。

  • 多量の細胞の回収にはintegrated pipette もしくは当社のFiltertips (MDS)の使用をお勧めします。
  • 少量の細胞グループまたは細胞単体の回収には、当社は直径20μmのガラス製毛管CellTramRvario とTransferTipsR (MDS)を用意致しております。
採取された試料は、あらゆる微小試験管、微小テスト用プレートの窪みに直接に移動させることができます。従って当然、PPMDの後のあらゆる下流プロセス(例:RT PCRまたは定量的mRNA発現分析)での応用が可能になります。分離された細胞の高い活性により、培養すらも可能です。

(技術仕様は変更になる場合があります。)

P.2

Molecular Technologies

MicroDissector PPMD (Piezo-Powered Microdissection)

PPMD応用例

(左側の翻訳)
生体細胞の単離(例:tissue engineering)

PPMDを使うことにより、組織片から個別の細胞の単離が可能である。単離された細胞は培養液に維持することができる。

マウス胎児骨の幹細胞と分別した軟骨細胞(chondrocytes)の単離。微小チゼル(M)を使って、軟骨の小塊(N)が周囲の細胞から切り離される。完全に分離させたのち、小塊はFiltertip MDS(F)によって採取され、他のペトリ皿に移される。更なる培養を経て、小塊から細胞が成長し始める。

この応用例は、Dr. RohwedelとDr. Kruse (Institut fur Medizinische Molekularbiologie der Universitatzu Lubeck, Germany)の提供によるものです。

(右側の翻訳)
組織学的切片からの細胞域の単離(例:がん研究)

細胞集団における分子遺伝的な変化の特性を見極めることは、腫瘍形成の過程を理解するうえで決定的な基礎といえます。このような分析はPPMDを使って対象細胞域を単離し、その後にRT PCR、mRNA発現差異その他の方法による試験によって実施されます。

組織片の種類と厚さに関する限り、PPMDの利用にあたって制約要因はありません。

ヒトの結腸粘膜からの細胞の単離。(出典:Harsch et al., 2001, Americ. J. Pathol, Vol. 158, No.6)  写真は、Dr. A. Niendorf (Medeea Forschungs GmbH,Hamburg)の提供。

注文情報

P.1

P.2


甲76号

《翻訳文》 《元原稿》
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Eppendorf,MicroDissector

細胞単体または少量の細胞域を迅速に単離するためのピエゾパワー(Piezo-Power)式マイクロダイゼクションシステム 利用の目的

  • 組織学的切片からの細胞単体または細胞域の単離。
  • 組織片からの生体細胞の単離。
製品の特徴
  • 超音波Piezo stepperがMicro Chisel(微小金属チゼル)を高周波低振幅で振幅させます。−従って、試料に熱が加わりません。
  • 電子制御の微小ピペットが、分離された粒子を吸引することで、その後の試験管における検査が行えます。
  • 全ての通常の試料に適用可能です。事前の処理は必要ありません。
  • 厚く硬い組織片からでも正確な切り出しが可能です。
  • 経済的なモジュラー式デザインは、幅広い応用を可能としています。
  • あらゆる通常の微細制御システムと合わせて使うことが可能です。


甲77号

《翻訳文》 《元原稿》
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アクセサリ

エッペンドルフ社MicroChisel(微小チゼル)
超微細なMicroChiselは、無菌消毒され個々に包装されています。応用の状況により、一回のみの使用でも、数回の使用でも可能です。ラボラトリにおける通常の方法により、簡単に洗浄・殺菌消毒ができます。

エッペンドルフ社Filetetip MDS
無菌消毒された使い捨てのFilertip MDSは、細胞グループからマイクロダイゼクト(微小切開)した粒子を吸引するために使われます。

TransferTip (MDS)
細胞単体を隔離するための、特別なガラス毛細管です。


参考資料―私的鑑定に於けるコンタミネーションの状況
同一のローカス(検査座位)には、父母それぞれから受け継ぐ2つのアリール(対立遺伝子)しか存在し得ないが、「私的鑑定」では、下記のようにSTRの3ローカス(D8S1358, D8S1179, TH01)で3つ以上のアリールが検出され、明らかにコンタミネーション(臓器に由来しない人の細胞の混入)を起こしている。


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