交通事故鑑定人・平野純一氏(仮称)による、交通事故再現の全文。くもの巣状のひび割れについて、鑑定書は、次のように結論づけている。
久保幹郎所有(平成9年事故当時)の車両の破損状況と乗員傷害の関係についての考察
鑑定人住所(省略)
平野純一(仮称)
目 次
観察日時 1回目 平成17年9月26日 10:20−11:30 2回目 平成17年10月6日 10:15−12:00 観察場所:久保佐紀子宅のジープ保存場所保存状況を図1に示す。ジープは雨がかからない場所にビニールシートをかけて保存さ れており、事件後8年を経た現在、比較的良好な状態で保存されていると言える。 ジープは、平成4年度の初年度登録のもので、車両諸元は以下のものである。
(1)左前部
(2)左前部および左側面 (3)フロントガラス |
(ア)衝突対象物の形状が変形面の形をしている場合
一般的にこのような形状のものが一般道路にあるとは考えにくい。 | |
(イ)塀端部等にまっすぐの方向に運動して衝突する場合
フェンダーは斜めに変形。衝突力は→の様に作用する。車の重心から離れた位置を通るため右回りのモーメントは大きく回転を起こす。通常この時接触面擦過痕を残すが本件では観察されない。また衝突後の前のめりの運動を考えるとボンネット右側面の破損を起こすとは考えられず、破損状況から考えて不自然な衝突形態である。なお、この場合、運転者は慣性力でほぼ真っ直ぐ前方に前進し運転席前のフロントガラスに頭部を衝突するので、この点からも破損状況と一致しないため不自然である。 | |
(ウ)塀端部等に斜め方向に連動して衝突する場合
フェンダーは斜めに変形。衝突力は→の様に作用する。車の重心近くを通るため右回りのモーメントは小さく僅かの回転しかおこさない。変形はそのまま斜め方向に進行するので、接触面に擦過痕が生じにくく、衝突後右斜め前方に前のめりの運動をするので、ボンネット右側面にあたり破損を起こす。これらのことからこの状況がもっとも自然な状況と考えられる。なお、この場合、運転者は慣性力で右斜め前方に前進し運転席より右寄りの位置のフロントガラスに頭部を衝突するので、フロントガラスの破損位置と合致する。この点からも、もっとも自然な衝突形態と考えられる。 |
フェンダーの変形形状から上図の(ア)(イ)(ウ)の3つの状態が考えられるが、(ウ)の塀端部等への斜めに衝突する状態が最も自然と言える。
低速走行で旋回した場合、旋回中心は後車軸線上にある。
ジープの右前部が75°の方向に運動するための旋回半径は上記で求められる。 速度が速い場合、旋回中心軸は前方に移動する(車両の特性により異なる)。 本件の25〜30km/hでは移動量は少ないと考えられるので、7〜8mの旋回半径で75°になるものと考えられる。 |
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(A)斜め前方のスリップ |
(B)右旋回中
(右旋回中、右前部は車両前後軸に対し右前方へ運動する) |
(事件当日の路面は乾燥状態であること、走行速度が高くないと考えられることから(B)の右旋回中に衝突したと考えるのが自然である。)
図17 衝突の状況と衝突の方向 | 図18 衝突対象物とタイヤの変形状況 |
[注]バリア換算速度
交通事故の衝突の状況を検討するとき、例えば「40km/hで相手の車に衝突した」 と言っても相手車の衝突時の速度や向き、衝突部位によって車両の破損も乗員の被害も 異なる。衝突対象の状況による影響を排除するために、変形を起こさせるエネルギ量か ら、強固なコンクリートバリアに衝突した場合に換算したものが「バリア換算速度」で ある。交通事故の調査データも「バリア換算速度km/h」で対比した乗員傷害のデータに しておき安全装置の効果などの比較を行っている。エネルギ変換のためのデータは、 各種の自動車を各種の速度で実際にコンクリートバリアに衝突させ、衝突速度、衝突加速度、 変形量等を計測して得ている。 |
(ア)ジープのフロントガラスは窓枠にゴムマウントで嵌め込まれている。 | (イ)室内側より分散荷重が加わると、室外側のガラスに反力が生じる。 | (ウ)外層ガラスには主に引っ張り力が働く。ガラスは引っ張りに弱いため外層ガラス側が先に割れる。 | (エ)現在の一般的自動車は窓枠にフロントガラスが接着されているため、室内側から分散荷重を加えても先に内層ガラスが割れる。 |
右斜め前方に衝突 | 運転者は慣性力で右斜め前方に前進しフロントガラスに頭部を衝突する。 |
図22 久保幹郎と同身長の鑑定人が運転席に着座した状況 | 図24 衝突状況の再現 フロントガラスまでの距離が短いため、容易に頭部を衝突する。 |
図25 衝突状況の再現(頭部の衝突位置) 頭部が前方に移動し、フロントガラスに衝突する位置は、破損部位に一致する。 |
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