県警は、甲54号平野鑑定にたいし、次の反論をした。そして、平野鑑定人の再反論は、次のようなものである(以下、甲55号10頁後段から抜粋)。
平野鑑定人の鑑定書(甲54号)にたいし、神奈川県警は、準備書面(10)において、以下3点につき反論をした。当該部分を、平野鑑定人の意見書から抜粋すると、次のようなものだ。
「実験車両(以下ジープ)のフロントガラスの割れが頭部の衝突によるものであるという平野鑑定に対し、神奈川科学捜査研究所他による精査検討として、以下の3点の反論が述べられている。
これに対し、平野鑑定人は、次のように述べている。
これらの反論に基づき、平野鑑定書における想定の下での運転席乗員がフロントガラス
に衝突し得ないことは経験則上明らかである。と結論づけている。」
「平野鑑定を細部に渡り理解するためには大学の理工学課程の力学、自動車工学の知識を要するが、大要をとらえ事故の内容を把握するためには高校の物理程度の知識で十分である。反論は、細部について物理学的に問題がありとの意見である。平野鑑定を十分に咀嚼できないための誤った意見であると考えられる。このため反論に対する以下の説明は、やや複雑な論理を述べなければならないため若干冗長にならざろう得ないものである。」
上記(1)は衝突速度、衝突位置についての計算が主な作業となるので、その計算過程を追っていくことは、平野鑑定人が言うように「冗長」なものであり、わずらわしいものである。よって、この部分はHP管理人の判断として省略する。
ここでは、主に、(2)(3)のフロントガラスのひび割れについて、県警と平野鑑定人のやり取りを見ることにする。
図4 反論(3)に添付されているシートベルトを着装した状態での運転者の前方移動量
レーシングカーなどに用いられるフルハーネス4点式シートベルトと異なり、本件で用いられている3点式シートベルトは、右肩から左腰に向かい斜めに1本のショルダーベルトが掛かっているだけのため、上体が前進運動をするとき、左肩が拘束されず抜ける上体になりやすいことは常識的に判断されるものである。このことは、2章で論議した頭部が前ガラスに対し右寄り位置に衝突する現象にも影響を与えている。
したがって、シートベルトをしていることによりフロントガラスに衝突はしないという反論(3)の内容は、シートベルトの性能と衝突現象を理解していない意見であるといえる。
反論(3)の後段に、「平野は「シートベルトをしていない状態」での再現を行った」および「被告神奈川県指定代理人において,本件ジープとほぼ同型の車両により実験を行ったが,当該車両の運転者が「シートベルトを着装した状態」では頭部をフロントガラスに接触させることはできなかった」との記述があり、これをもって経験則上頭部はフロントガラスに衝突しないという結論を述べている。
まさにこの記述は反論者が衝突現象を理解していないことを示している。乗員の衝突状況の再現は静的には出来ないのである。再現するためには、体重の数十倍の力でベルトを引っ張らなければならない。このことから平野は、ベルトをしない状態で位置関係を確認する再現をしたのである。また、3章で述べたように、被告代理人が行った実験も静的な状況による再現であり、これをもってガラスの位置まで達しないので衝突しないと判断することは余りに稚拙な判断であると言わざるを得ない。むしろ3章で説明したように、静的なわずかな力で、ガラス直前まで達することは、衝突が十分起こりえることの証左を図4は、示している。
反論の精査検討を行ったのは、神奈川県警科捜研他と記述されている。各県警の科捜研は県内の交通事故の内、難解なものを鑑定する機能を有しているはずである。しかしながら平野鑑定に対する反論から考えると、自動車運動特性の衝突現象や力学を十分に把握しているのか理解に苦しむところである。
今回の反論の主たるものは、衝突速度や衝突位置に関するものであった。この問題も大切なものであるが、平野鑑定のもっとも重要な点であるフロントガラスの割れと頭部の衝突は因果関係ありとの結論に対し、反論では種々理由を挙げ否定している。
では、神奈川県科捜研は交通鑑識の専門家として、ジープのフロントガラスに生じている割れは何により生じたものであると鑑定されるのであろうか。単に因果関係なしとの結論では専門家としての仕事をおろそかにしたとのそしりは免れない。フロントガラスの割れは交通事故では日常茶飯事で見られる現象であるから特段難しい鑑定のレベルでは無いと考える。是非鑑定することをお願いして、意見書のまとめとする。
ページのトップへ | |
ホームに戻る |